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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)10739号 判決 1980年8月08日

原告

畑中安子

(他一三名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

道下實

被告

愛国工業株式会社

右代表者代表取締役

遠藤士一

右訴訟代理人弁護士

奥野利一

稲葉隆

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

被告は、原告畑中安子、同畑中美智子、同畑中富美子に対し各金三三五万三五五七円、同丸山実に対し金九三三万三四九二円、同加藤保に対し金四四八万四二九三円、同山口滉に対し金六七七万八五二六円、同吉井義郎に対し金五五八万七二九三円、同有水薫に対し金五四七万六六八八円、同津田利秀に対し金三三五万一九二〇円、同茅島秀世に対し金二五五万九八四七円、同新村憲尖に対し金四四八万五一八四円、同中条正昭に対し金四四二万九三八六円、同小堤秀雄に対し金五七二万七一〇四円、同末吉国雄に対し金四五五万八八三〇円及び右各金員に対する昭和五三年一一月一一日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  被告

主文同旨の判決。

第二主張

一  原告の請求原因

1  畑中五介及び原告畑中安子、同畑中美智子、同畑中富美子を除く原告ら(以下「畑中を除く原告ら」という)は、被告会社に入社し(入社年月日は別紙(5)欄記載のとおり)(略)、その精機研究所に勤務していたものであるが、業績不振による右研究所の閉鎖に伴い、畑中五介は昭和五三年四月三〇日、畑中を除く原告らは同年三月三一日、それぞれ就業規則に基づく退職金に割増金を付加して支払うとの合意のもとに、被告会社を退職した。

2  被告会社の就業規則によれば、退職金は、退職直前の給料を基礎とし、これに勤続年数及び一定の支給率を乗じて算出することと規定されていたが、右算出の基礎となる給料は、本給に補給金及び物価手当を加えたものをいう。このことは、右合計金員を労使ともに給料と理解して授受し、また、社会的にも右合計金員が給料とされていることからも自明である。(以下事実略)

理由

一  請求原因第1項の事実のうち、畑中五介の退職日及び同人の退職金につき被告会社が割増金を付加する旨約したことを除くその余の事実、同第2項の事実のうち、被告会社において原告ら主張のような就業規則の規定が設けられていたことは、当事者間に争いがない。

二  初めに、右就業規則に定める退職金算定の基礎となる給料が何を意味するかにつき検討するに、(書証・人証略)によれば、被告会社においては、昭和二三年以来の退職者に対し、例外なく本給を基礎として算出した退職金を支給してきたが、本件原告ら以外には右の算定方法に異議を述べた者はなかったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、被告会社の就業規則の退職金に関する規定における「給料」なる文言は、本給を意味するものとして取扱う慣行が成立していたと認めることができ、したがって原告らの退職金の算定においても、本給を基礎とすべきものと解するのが相当である。

三  そこで、畑中を除く原告らの就業規則に基づく退職金を算定すると、右原告らの本給、勤続年数、支給率が別紙(1)(6)(7)欄記載(略)のとおりであることは当事者間に争いがないところであるから、その金額は別紙(9)欄記載(略)の金額と一致する。そして、同欄記載の金員の支払がなされたことは当事者間に争いがないから、結局畑中を除く原告らは、就業規則に基づく退職金をすべて支給されたこととなる。そうすると、右原告らの請求は、いずれも理由がない。

四  次に、原告畑中ら三名の請求について検討するに、(書証・人証略)によると、次の事実を認めることができる。すなわち、被告会社の取締役で精機研究所長であった畑中五介は、昭和五二年八月頃被告会社の代表取締役遠藤士一から、被告会社の経営不振を理由に精機研究所を昭和五三年三月末日をもって閉鎖して同研究所の従業員を全員解雇したい旨告げられ、その事務処理を命ぜられたこと、その際、右遠藤は、右畑中及び藤野王祺に対し右同日をもって取締役を辞任するよう求め、従業員としての退職金と取締役としての退職慰労金と合わせて一〇〇〇万円支払うほか、右遠藤の関与している京王閣という会社の嘱託に右両名を一年間採用する旨申し入れたところ、右畑中及び藤野は、これに応ずる意向を示したこと、その後、藤野は取締役を辞任せずに被告会社に残ることとなったが、畑中に対しては、昭和五三年三月末頃、右遠藤から、京王閣の嘱託に採用することは取り止め、退職金及び退職慰労金を一三〇〇万円としたい旨の申出がなされ、畑中は、これに同意して同月末日をもって取締役を辞任したこと、そして畑中は、被告会社から同月三一日一〇〇〇万円、同年四月一五日三〇〇万円を受領したこと(畑中が被告会社から一三〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがない)、なお、右一三〇〇万円の支払については、後日被告会社の株主総会において承認されたこと、以上の事実を認めることができ、(書証・人証略)は、前掲各証拠に照らしにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、畑中五介の退職金及び退職慰労金は支払済みであり、請求原因第4項(一)、(二)及び(四)の主張は、すべて理由のないことが明らかである。

また、請求原因第4項(三)の未払給料の請求についても、なるほど(人証略)によると、畑中五介は、残務整理のため昭和五三年四月一日から一五日頃まで、及び同月二八日、二九日の両日被告会社の仕事を処理したことが認められるが、前認定のとおり、畑中五介は同年三月末日をもって取締役を辞任したものであるから、その後右のとおり被告会社の仕事を処理したとしても、これをもって取締役としての職務を遂行したものということはできない。したがって、同人は、同年四月一日以降は取締役としての給料ないし報酬の請求権を取得するものではないといわざるを得ない。してみると、右の請求も理由がない。

五  以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 相良朋紀)

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